『デンスブレスト』について、厚生労働省と学会はどのように考えているのか

 『デンスブレスト』という言葉をご存じでしょうか。日本語では『高濃度乳房』ともいわれます。乳腺の脂肪化が少なく、マンモグラフィでは乳房が全体に白く見えるために、乳がんが見つかりにくい乳房のことを言います。

 先日、テレビドラマ『ラジエーションハウス』でも取り上げられていましたので、ご覧になった方も多いかもしれません。ドラマでは『デンスブレストの場合はマンモグラフィ検査では不十分なので、エコー(超音波検査)を推奨する』と本田翼さん演じる放射線科医がレポートしていました。

 そのドラマのちょうど次の日曜日に、乳がん診断関係の学会に参加しました。私自身も“ドラマのとおり”だと思っていたのですが、学会での説明はだいぶ違っていました。

 主な内容は、

マンモグラフィでデンスブレスト(高濃度乳房)だった場合、次に行うべき有効な検査はない(と断定してます)。

〇なので、デンスブレストだった受検者に対して、「あなたはデンスブレストでした」と知らせるのも特には推奨しない。

〇一方で、「ブレストアウェアネス(自分の乳房の正常な状態を知っておき、乳房の変化に気づくこと、みたいな意味だそうです‥)」という理念は広く勧めていきたい。らしいです。

 講演で話されたことは、ほぼすべて下記の報告書のとおりです。

http://jbcs.gr.jp/wp-content/uploads/2017/03/243a3179b11a20a4bc16eacb5f50bb00.pdf#search='%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E5%AD%A6%E4%BC%9A+%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%88'

 

 デンスブレストに対してエコー検査は有用だろうと、多くの医師は考えています。また、エコー検査をすれば早期がんがより多く発見できることは、すでに証明されています。今のところ、がん検診の目的は、がんを早期のうちに発見することだと思いますので、別にエコー検査を勧めて悪いことはないと思います。

 最近よく学会等でとりあげられるのが、『過剰診断』という概念です。一言でいうと『命にかかわらないがんを見つけること』を指します。「過剰診断は避けたい」のは当然で、学会もしきりに強調しますが、現在のところ、どのケースあるいはどんながんが『過剰診断』になるどうかは明らかになっていません。「マンモグラフィで見つからないがんは過剰診断である」との結論が出ない限り、検診に携わる人は、まずはがんを見つける努力をするしかありません。『過剰診断』という言葉は、「がんばるな」みたいな、なんとなく“後ろ向き”な感じがします。

 デンスブレストの乳がん検診でエコー検査を「したほうがいいか、しないほうがいいか」といえば、それはたぶんしたほうがいいでしょう。厚生労働省や学会は、どうして乳腺エコーの併用を勧めないのでしょうか。お金の問題を考えてのことなのかもしれませんが、費用負担についてはそのあとの問題だと、きちんと区別したほうがいいと思います。

 現在、国の指針では、肺がん検診は胸部レントゲン、胃がん検診はバリウム検査となっています。これらは『対策型検診』と言われています。これに対して、CTでの肺がん検診は『任意型検診』といわれます。内視鏡による胃がん検診もずっと『任意型検診』でしたが、1-2年前にようやく『対策型検診』と認めてよいとされたようです。

 『任意型検診』という言葉通り、この方法での検診をダメと言っているわけではなく、人間ドックとかではオプションで受けられます。『対策型検診』というのは、『国が認めた検診』として認知されています。『対策型検診』は自治体から受けなさいと言われるし、お金の補助もあるのですが、それだけではない言葉の力による差も、『任意型検診』との間にあるような気がします。

  がん検診については、厚生労働省の方針、学会の姿勢に少し疑問を感じていますので、これから何回かに分けて書いていきたいと思います。

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