2017年のちょうど今頃(6月下旬)ですが、青森県のがん検診で『がん検診での見落としが多い』という報道がありました。
~ 検診を受けて異常なしと判定されたのに1年以内にがんと診断された人を見落としの可能性があると定義し、その割合を調べたところ、検診の段階でがんを見落とされた可能性がある人はバリウムによるX線検査を行った胃がんで40%、便に含まれる血を調べる「便潜血検査」を行った大腸がんで42.9%、子宮の入り口の細胞を調べた子宮頸がんで28.6%に上ることを示す分析結果がまとまりました。一方、肺がんは16.7%、乳がんは14.3%でした。専門家によりますと、一般にがん検診では20%程度の見落としは許容範囲と考えられているということです。 ~
この発表については、データの量や分析手法が統計学的に問題が多いとして、正式な“真実”とはされていませんが、『がん検診で異常なしとされたけれども、実際にはがんが存在していた可能性が少なからずある』ということは、間違いではないようです。
当時はマスコミもこぞってこの問題を取り上げ、『ダブルチェックなど、検診の精度を上げなければならない』と報道されていましたが、これはやや本質ではありません。なぜがん検診で『見落とし』があったかといえば、それは当たり前のことで、検査方法が違うからです。正確には『見落とし』というより『がん検査法による差』といったほうがいいかもしれません。
現代の医学において、胃がんがあったとは、胃内視鏡検査で胃にがんが見つかったことを言い、大腸がんがあったとは、大腸内視鏡検査で大腸にがんがみつかったことを言います。内視鏡検査が『結論的な検査』と言えます。これに対して、現在標準的に行われているバリウム検査は現代の医療において、胃がんがあるかどうかの『結論的な検査』ではないのです。バリウム検査で正常とされて人が何らかのきっかけ(例えば胃が痛んだなど‥)で内視鏡を受けてしまうと、一定の割合で小さながんが見つかり、『見落とし』と言われるのです。これに対して、胃内視鏡検査で検診を実施すると、“すべて”の胃がんは見つかります。(仮に内視鏡で見つからないような胃がんが存在していた場合、それはがんはなかったことになります。)もし、胃内視鏡のがん検診の直後に、何かの事情で内視鏡検査を受けてがんがあった場合、これは本当の意味で「がんが見落とされていた」ことになります。
青森のデータでは、肺がんの見落としは16.7%となっていますが、これは明らかに少なすぎます。現在は胸部CTが『肺がんがあるかどうかの結論的な検査』ですが、CTをした場合、胸部単純X線写真(通常のレントゲン)よりも10倍ぐらいがんが見つかるといわれていますので、青森のデータは「レントゲン検診のあと、胸部CTをする機会がなかった人が多かった」だけと思われます。(そう考えると、胃や大腸の『見落とし?』ももっと多いのかもしれません。)
がん検診のすべてが『結論的な検査』である必要はないとの反論も多いでしょう。例えば大腸がんについては、①少し進行した状態で見つかっても救命できること、②結論的な検査である大腸内視鏡検査がとても負担の大きい検査であることの2点において、スクリーニング検査は便潜血検査でよいと評価されてきました。ただ、今回のデータはこの検査さえ疑問を感じるほどの結果でした。『結論的な検査』である必要はありませんが、その検査に最低限相応の『感度』は必要でしょう。
胃がん検診については、最近では胃内視鏡検査を取り入れている自治体も多いと思います。胃内視鏡検査は普及し、多くの医療機関でほぼ安全に受けることができます。
これに対して肺がんCT検診は普及していません。CT検診では放射線被ばくが最大のデメリットですが、近年は低線量化が進み、被ばくも問題のないレベルになりました。つまりほぼデメリットのない検査になっていますが、肺がん検診といえばまだまだ通常の胸部レントゲンが行われています。
医療は進歩しているのに、現在のがん検診はまだ一昔前の診断法でなされています。これが、『見落とし』が発生するそもそもの原因です。